時事問題の背景に学ぶ<シリア問題>

2015年、ヨーロッパ国境にシリアやイラクなどからの難民が続々と押し寄せている。その数、実に数百万人。その中で、クルド系シリア人、アイラン・クルディ少年の遺体がトルコの海岸で見つかった写真は世界に大きな衝撃を与えた。同年9月にロシアによるシリア空爆が行われたが、アサドとイスラム国という「二つの敵」論を繰り返す米欧に比べるとロシアの立場は単純で、イスラム国と戦うにはアサド政権を受け入れることも辞さないという。まさに中東の火種ともいえるシリアだが、アラブの春から5年、なぜシリアの春は挫折したのか。シリアの内戦に関する外国の関与は、「第三次世界大戦」のリハーサルなのか。混沌のシリア情勢を米欧とロシア・イランなどの動きとともに追いかける。


シリア内戦で生まれた国外難民400万人

シリア難民問題(1)クルディ少年の悲劇

ヨーロッパ国境に難民が押し寄せている。イスラム国(IS)の台頭などの影響を受け、シリアやイラクでは数百万人規模の人びとが国外退去を余儀なくされ、あるいは国内で避難民となっているのだ。とりわけクルド系シリア人、アイラン・クルディ少年の遺体がトルコの海岸で見つかった写真は、人びとに大きな衝撃を与えた。「第2次大戦以来最大の難民危機」が叫ばれる今、近隣の湾岸諸国への風当たりが強くなっている。世界や日本の報道が伝えきれない真実について、歴史学者・山内昌之氏が読み解いていく。(全3話中第1話目)。


湾岸諸国(GCC)とヨーロッパの難民事情

シリア難民問題(2)アラブ諸国に対する誤解

ヨーロッパ、特にドイツのシリア難民受け入れが連日報道されているが、湾岸諸国でも難民の数は急増している。では、その地域における難民の姿がさほどクローズアップされないのはなぜなのか? 歴史学者・山内昌之氏が、人道的観点一辺倒では語れない難民問題を公正な目を通して解説する。(全3話中第2話目)


隣国イランはシリア難民を一人も受け入れていない

シリア難民問題(3)解決に向けて~期待されるイラン

歴史学者・山内昌之氏によれば、シリアをはじめとする難民問題は、今や国際社会全体で対応すべきレベルに達している。そこで、この難民問題解決に向け期待すべき国として山内氏はイランを挙げている。イランはシリアの隣国でありシリア紛争に介入してきた国だけに、果たすべき役割は大きい。(全3話中第3話目)


ロシアのシリア空爆にみるプーチンの大国戦略

混沌のシリア情勢を読む(1)ロシアのシリア空爆

2015年9月30日、ロシアによるシリア領土への空爆が始まった。しかし、そもそもシリアの内戦で解決すべき政治問題とは何かについて、国際社会は合意を見ていないと、歴史家・山内昌之氏は言う。シリアを挟んで対決しているのは誰なのか。そして、プーチンの考えるロシアの大国戦略とは。(全4話中第1話目)


ロシアの軍事干渉はイランからアサド政権を守るため

混沌のシリア情勢を読む(2)ロシアの大国戦略

シリア問題へのロシアの干渉の本格化は、一体何を意味するのだろうか。シリア軍隊救出、アサド政権救出がうたわれているが、何から、そして何のためにかは明らかではないと、歴史家・山内昌之氏は言う。前回に引き続き、中東干渉に潜むロシアの大国戦略について、さらに歴史的な見方で掘り下げていただく。(全4話中第2話)


なぜシリア内戦でアサド政権は持ちこたえているのか

混沌のシリア情勢を読む(3)シリア内戦の特異性

歴史学者・山内昌之氏が、シリア情勢を「内戦」という観点から語る。山内氏は「内戦」の定義づけ、特徴検出を行い、そのいずれにおいてもシリアは「内戦」状態から外れていると指摘する。シリア情勢の特異性とは? また、その特異性はどのような危険をはらんでいるのか? (全4話中第3話目)


残酷がさらなる残酷を生む内戦のメカニズム

混沌のシリア情勢を読む(4)内戦の文法

シリアの内戦は、外国干渉が大きく介在し、今や泥沼化の様相を呈している。歴史学者・山内昌之氏は、そこには「内戦の文法」があると言う。その文法ゆえに多くの内戦は複雑化し、外と結び付けば戦争へという不幸なプロセスを経てしまうのだ。本シリーズ最終話では、人類が自ら生み出した不幸を歴史的文法という山内氏独自の観点で解説する。(全4話中第4話目)


「シリアの春」を挫折させたのは外国の軍事干渉

中東の火種・シリア(1)なぜシリアの春は挫折したのか

歴史学者・山内昌之氏は2016年1月、アラブ首長国連邦、トルクメニスタン、イランを訪問。そこで見聞した中東の現実を紹介しながら、複雑な上にも複雑にしているスンナ派とシーア派の宗派対立について解説。そして、「アラブの春」から5年、チュニジアから始まった変革の波の中、なぜ「シリアの春」は挫折したのか。山内氏が分析を加える。(全3話中第1話目)


「ジュネーブ3」シリア紛争解決協議は順調ではない

中東の火種・シリア(2)アサド復権への曲折

シリアの騒乱状態は、今年も収まる気配を見せない。メディアは「内戦から戦争へ」と警戒しているが、外国勢力による公然たる軍事干渉が「シリアの春」を挫折させ、テロとの戦いを盾にとることで、内戦をとっくに「シリア戦争」にエスカレートさせている。アラブの悲劇は、全てシリアに凝縮されているかのようだ。現在のシリア危機は「世界史レベル」だと指摘する歴史学者・山内昌之氏に解説いただこう。(全3話中第2話)


アサド大統領の最大の政治責任は国家存続を危うくしたこと

中東の火種・シリア(3)世界革命史から見たアサド

アサド大統領の暫定政権残留をめぐって、国際世論が二分している。そもそもアサド大統領の最大の政治責任はどこにあるのだろう。シリア問題の世界史的意味をめぐって、歴史学者・山内昌之氏が、18世紀フランス革命や20世紀ロシア革命との比較から「大アラブ革命」の解説を試みる。(全3話中第3話)


モスル陥落で終焉が近づくイスラム国の今後

ポスト・モスルの中東情勢(1)ISはこのまま消えるのか

2017年7月10日、イラクのアバディ首相は、モスルがIS(イスラム国)の支配から解放されたことを宣言した。未曾有のテロ組織ISは明らかに弱体化しつつあり、中東情勢に新たな局面が開かれたことは間違いない。ISの暴虐は、このまま鳴りを潜めるのか。中東・イスラーム史研究の第一人者である歴史学者・山内昌之氏に今後の見通しをうかがってみた。(全2話中第1話)


イラクが直面するモスル解放後の三つの政治課題

ポスト・モスルの中東情勢(2)イラクは再生できるのか

ポスト・モスルの中東を考えるには、その深く重い歴史と直面する必要がある。宗教・宗派・民族によって引き裂かれた人々は、さらにその内部でも対立を繰り返しているからだ。イラクは再び平和を取り戻すことができるのか。中東・イスラーム史研究の第一人者である歴史学者・山内昌之氏にうかがってみた。(全2話中第2話)