講義一覧
『源氏物語』を味わう(8)最愛の人・紫上に対する鎮魂歌
光源氏の正室・女三の宮は、頭中将の息子・柏木とのあいだに不義の子を産むことになる。源氏は女三の宮を女として顧みることなく、ここでも紫上は最終的に救われる。やがて死を迎える紫上だが、何の苦しみもなく、源氏をはじめ愛する人たちに囲まれて死んでいく。こんな幸せな死に方をした女性は、他には出てこない。紫上の死後、源氏は腑抜けになってしまうのだが、このこともこれ以上ない紫上に対する鎮魂歌である。(全8話中第8話)
『源氏物語』を味わう(7)光源氏の裏切りと紫上の救済
光源氏の最愛の人だった紫上の一生は、幸福と不幸があざなえる縄のようにやって来るものだった。10歳で源氏のもとへ連れてこられたが、手厚くかわいがられて育った。源氏が明石の君とのあいだに子どもをなしたのは紫上にとって裏切りではあったが、源氏にとっては、そのことが逆に紫上こそ一番愛すべき人だと確認することにつながるのである。(全8回中第7話)
『源氏物語』を味わう(6)ユーモア物語としての「末摘花」
『源氏物語』には「もののあはれ」を感じる場面だけでなく、爆笑また爆笑といった場面もあちこちに出てくる。常陸宮の姫君である「末摘花」の話もその一つである。ボロ屋敷に忍び込み、末摘花の仲を結んだ光源氏が翌朝、彼女の容貌をうかがおうと必死に横目で見て驚く場面には、誰もが大きな笑みをこぼしたのではないだろうか。ただし、そこで物語は終わらない。この後、末摘花はどうなったのか。そこにはホロっとさせる語り口があり、そこも『源氏物語』の一つの特徴なのだ。(全8話中第6話)
『源氏物語』を味わう(5)脇役の存在と「もののあはれ」
いい映画には名脇役の存在が欠かせないように、『源氏物語』にも味のある脇役がいろいろと出てくる。その一人が明石の入道だ。地方官だが、いずれ都で大きな権力を得たいと思っている彼は、そのために妻も娘も孫も都にいる光源氏のもとへ行かせ、自分は一人明石に残る。家族との別れの日の朝は、「もののあはれ」ともいえる、さりげないけれど名場面の一つである。(全8話中第5話)
『源氏物語』を味わう(4)色恋とエロスの物語
『源氏物語』には、男と女のエロティックな色恋の場面があちこちに出てくる。そうした行為を昔の人は「実事」と表現したが、『源氏物語』にはそうした具体的なことすら書かれていない。男が女の閨に入れば、それは当たり前のことだからである。閨に入ったら、次は帰るところから始まる。その間を読者に想像させるところに深いエロティシズムがある。紫上との初夜では、翌朝「女が起きてこない」と書くことで、肉体的に結ばれたことを読者に分からせようとした。(全8話中第4話)
『源氏物語』を味わう(3)形容詞からの楽しみ方
『源氏物語』はストーリーだけでなく、文章にも微細な表現の妙がある。その一つが形容詞の使い方で、人物によって形容詞を使い分けている。さらに同じ光源氏でも、批判的な意味を込めたいときには使う形容詞を変えているのだ。そこで今回は「きよら」と「きよげ」という形容詞に注目し、その違いを謹訳と原文で読み解く。(全8話中第3話)
『源氏物語』を味わう(2)光源氏をめぐる女性たちの物語
『源氏物語』の本質は、光源氏をめぐる女性たちの物語である。登場して間もなく物の怪に殺される夕顔、ボロボロの屋敷に住んでいる末摘花、最後まで一番好きだった紫上、あわよくばものにしようとしたライバルの娘・玉鬘など、さまざまな女性が出てくる。そこには恐ろしい物語もあれば、コミック的な物語、ホームドラマ的な物語もある。さまざまな面白みをもった面白さの多面体が『源氏物語』である。(全8回中第2話)
『源氏物語』を味わう(1)『源氏物語』を読むための基礎知識
『源氏物語』は光源氏と源氏の息子たちを中心に描いた70~80年におよぶ長い物語である。非常にボリュームがある上、原文は難解で大半の人は読むのが困難だ。それでも現代までこの物語が残ったのは、読めた人たちが面白いと思い、人に伝えたいと写本を作ったり、語り聞かせたりしてきたからである。そんな魅惑の書の読み方として、第1話では『源氏物語』の基礎知識をお伝えしていく。(全8話中第1話)