樋口隆一

明治学院大学名誉教授/音楽学者/指揮者

プロフィール

1946年、東京生まれ。

音楽学者、指揮者。
慶應義塾大学大学院博士課程在学中にDAAD奨学生としてドイツ留学。
テュービンゲン大学哲学博士。
明治学院名誉教授。
明治学院バッハ・アカデミー芸術監督。
元国際音楽学会(IMS)副会長。
京都音楽賞研究評論部門賞、辻荘一賞、テオドル・ベルヒェム賞。
オーストリア学術芸術功労十字章。

著書に
『バッハの人生とカンタータ』
『バッハ探究』
『バッハから広がる世界』(以上春秋社)、
『バッハ』(新潮文庫)、
『バッハ カンタータ研究』(音楽之友社)、
『バッハの風景』(小学館)など。

また、CDに
バッハ《マタイ受難曲》《カンタータ傑作集》、
ベートーヴェン《ミサ・ソレムニス》、
フォーレ《レクイエム》 ほか多数がある。

講義一覧


中世ヨーロッパの基礎的な学問「7自由学科」の一つが音楽

バッハで学ぶクラシックの本質(1)リベラルアーツと音楽

クラシック音楽に関心がある人もない人も、バッハの名を耳にしたことはあるのではないだろうか。バッハの音楽がなぜ人を惹きつけるのかを考えるためには、西洋のクラシック音楽の伝統を理解する必要があると、樋口隆一氏は力説する。シリーズ第1話である今回は、まず中世ヨーロッパの学問の一つとして音楽が取り上げられてきたことに触れ、西洋クラシック音楽の豊穣な歴史の端緒について解説する。(全9話中第1話)


12世紀後半の細密画から絵解きするリベラルアーツ

バッハで学ぶクラシックの本質(2)リベラルアーツの内容

リベラルアーツとは具体的にどのような内容なのだろうか。文科系3科目、理科系4科目の計7科目に関して、12世紀後半に描かれた細密画を用いて、詳細な解説を加える。この絵には擬人化された7つの科目が描かれており、音楽を含めそれぞれの科目でどのような教育が行われていたかを一目でうかがい知ることができるようになっている。(全9話中第2話)


ピタゴラスが発見した音楽理論…宇宙の調和と天空の音楽

バッハで学ぶクラシックの本質(3)宇宙の調和と音楽

なぜ音楽はリベラルアーツの一部として重要視されてきたのか。実は、「音楽」という言葉には、現代的な意味よりもはるかに大きい世界の調和を示す意味があった。その中で現在の意味での音楽は、ピタゴラスの発見などによって、宇宙と人体の調和を表現する神秘的な意味を持つとされ、学問的追究の対象となっていったのである。(全9話中第3話)


神に助けを求め、感謝を捧げながら作曲した天才・バッハ

バッハで学ぶクラシックの本質(4)バッハの作曲への姿勢

西洋クラシック音楽の源流は、宇宙までを巻き込んだ壮大な調和の世界の中に存在した。バッハはそうした流れを汲み、天才的な作曲家であったにもかかわらず、常に作曲に際して神に助力を乞い、そして作曲後は神に感謝していた。こうした伝統的な価値観は、啓蒙主義の出現とともに衰退し、現代ではほとんど見られなくなっている。バッハの自筆譜などを用いながら、バッハの作曲の背景にある価値観に関して丁寧に解説する。(全9話中第4話)


19世紀のドイツで起こった“バッハのルネサンス”

バッハで学ぶクラシックの本質(5)バッハのルネサンス

自分という小さな存在のためではなく、普遍的な宇宙を表現するために作曲をするというバッハの精神は、彼の死後100年たった19世紀に、幾人もの偉大な作曲家たちに受け継がれていった。こうしたクラシック音楽は、何かとわずらわしい現代社会でも、私たちの精神を解放してくれる素晴らしいものだと、樋口隆一氏は力説する。そうした素晴らしいクラシック音楽の伝統がどのように発展してきたのか、キリスト教との関係性と合わせて解説する。(全9話中第5話)


クラシック音楽の源流はキリスト教の聖歌である

バッハで学ぶクラシックの本質(6)聖歌からの音楽の発展

キリスト教の聖歌は、非常に長い歴史を持っている。はじめは小さな修道院で単純な歌を歌っていたが、徐々に都市が成立するとともに、生活が複雑かつ巨大なものとなると、それに伴いポリフォニーや対位法といった複雑な作曲技法が発展してきた。こうした発展過程から、今日も聞かれているクラシック音楽の源流が生まれてきたのである。樋口隆一氏が解説するいくつかの作曲家のミサ曲を聴きながら、クラシック音楽の豊潤な歴史に思いを馳せるのも良いのではないだろうか。(全9話中第6話)


ルター派の音楽を受け継ぐ最後の後継者として現れたバッハ

バッハで学ぶクラシックの本質(7)宗教改革と音楽の変化

これまで見てきた教会音楽の隆盛は、宗教改革によって大きくその様相を変化させることとなる。腐敗した教会制度を厳しく批判し、宗教を一般人にも分かりやすいものとして身近なものとしたルター派の宗教改革は、よりなじみやすいルター派の教会音楽の流れを生み出した。今回は、ルター派の流れをくむ音楽家の最後の一人としてのバッハの立ち位置を強調し、ヨーロッパの複雑な宗教と音楽の関係を描き出す。(全9話中第7話)


オペラの始まりとバッハが「マタイ受難曲」を書いた背景

バッハで学ぶクラシックの本質(8)オペラ、和声、対位法

宗教改革に伴って教会音楽が大きく変化する中、新たな音楽のジャンルとしてのオペラが脚光を浴び始めていた。教会とは関係がなく、世俗権力の栄光を讃えるために用いられたオペラの文化に、バッハも作曲上の影響を受けていた。しかし、こうした動きは教会などに責められることになる。それでも、バッハが生み出した音楽理論は、20世紀に至るまで多くの名作曲家に対して多大な影響を与え続けてきた。(全9話中第8話)


「音楽の父」と呼ばれたバッハが影響を与えた名作曲家たち

バッハで学ぶクラシックの本質(9)「音楽の父」の晩年

バッハの晩年は、ヨーロッパの歴史を受け継いできたという自覚を持ち、非常にスケールの大きな曲を作っていった時代であった。最後の曲、「ミサ曲ロ短調」もおそらくカトリックの影響下で書かれており、キリスト教との強い関係は最後まで持ち続けていた。バッハの遺した音楽は、モーツァルトやベートーヴェンをはじめとした、クラシック音楽の巨匠たちに少なくない影響を及ぼし続けた。その意味で、バッハに冠せられた「音楽の父」という呼び名は妥当なものだと、樋口隆一氏が力説する。(全9話中第9話)